脳血管内治療について neuroendovascular therapy

ちょっと待って。もしかしたらその病気、
切らずに治せるかもしれません

  はじめまして、大川原脳神経外科病院です。当院のホームページをご覧頂きありがとうございます。

  「脳神経外科」は「脳の病気を手術でなおす」事を専門としています。それでは「手術」というと、どのようなイメージを持たれるでしょうか?恐らく「手術=切る」というイメージが強いのではないでしょうか?しかし、時代はかわるとともに技術も進歩し、手術が必要な脳の病気も切らずになおせる時代になりました。その方法が、「脳血管内治療」です。

  脳血管内治療は、脳神経外科で最も注目されている治療法の一つです。時代ともに技術や器材は進歩し、脳血管内治療は今や「無くてはならない治療」になりました。しかし歴史の浅い治療法なので専門的な知識、技術をもつ医師は、全国的にまだ多くないのが現状です。当院は、胆振日高地方で唯一の日本脳神経血管内治療学会研修施設に認定されています。日本脳神経血管内治療学会指導医2名と専門医2名を擁し、その豊富な経験と卓越した技術により、良好な治療成績をおさめています。またいち早く最新の器材を導入し、ここ室蘭から世界レベルの治療が提供できるよう、日々研鑽に努めています。さらに、次世代の脳血管内治療を担う若手医師の育成にも、力を入れています。

脳血管内治療はどんな治療?

  脳血管内治療とは、脳の病気を「血管の中から」治療する方法です。全身の血管は、大動脈から脳、手足、内臓などすべての臓器につながっています。そのため、足の付け根の血管など体の表面近くを通る太い血管からカテーテル(管)を脳の血管まで進めることができます。治療の際は直径2-3mm程のカテーテルの中に、さらに細い直径0.5-1 mm程度のマイクロカテーテルを入れ、病気のある部位まで進めていき、様々な器材や薬品を用いて治療します。治療を行っている様子は、造影剤とモニターで確認しながら行います(図1)。

図1

今までの治療法と脳血管内治療の比較

  脳神経外科の治療法は、主に外科的治療(手術)、内科的治療(薬剤による治療)、放射線治療の3種類でした。外科的治療(手術)は現在でも数多く行われており、外科的治療(手術)でなければ治療できない病気もたくさんあります。一方で外科的治療(手術)は、皮膚を切開し頭蓋骨に穴を開け、脳に直接触れたり長時間を要する場合もあり、患者さんの身体に大きな負担がかかっていました。また、手術後の創部の痛みや手術中の体力消耗などにより、とくに高齢の患者さんでは、術後の回復が遅れることがありました。

  しかし脳血管内治療が登場したことで、皮膚を大きく切開することなく、注射針より少し大きい程度の小さな傷で、脳に直接触らずに短時間で治療できるようになりました。体力の消耗も少ないため術後の回復は非常に早く、早期に社会復帰できます。退院した翌日から、職場に復帰することも十分に可能です。現在は技術や器材の進歩により、外科的治療(手術)に負けない治療効果を期待できるようになり、また病気によっては脳血管内治療が第一選択になることも増えてきました。

脳血管内治療の対象となる病気

  脳血管内治療は、脳の血管の病気(脳血管障害)をなおす治療法です。脳血管内治療は、たくさんの病気の治療ができます。

  • 破裂脳動脈瘤(くも膜下出血)
  • 未破裂脳動脈瘤
  • 頚動脈狭窄症
  • 急性期脳梗塞
  • 頭蓋内動脈狭窄
  • 頭蓋外動脈狭窄(鎖骨下動脈、椎骨動脈)
  • 硬膜動静脈ろう
  • 脳動静脈奇形
  • 脊髄動静脈奇形
  • 難治性鼻出血
  • 顔面外傷による出血

  なかでも「脳動脈瘤」、「頚動脈狭窄症」、「急性期脳梗塞」の3つで9割以上をしめます。これから、この3つの病気の脳血管内治療について解説します。

脳動脈瘤

脳動脈瘤とは?

  脳動脈瘤(図2)は、人口の5%程度で保有しているといわれています。脳動脈瘤は無症状であることがほとんどですが、破裂するとくも膜下出血になります。くも膜下出血はねたきり、もしくは死亡する可能性がおよそ30%と非常に恐ろしい病気で、この数字は20年間変わっていません。では、その破裂率はどれくらいか?というと、年間におよそ100人に1人(1%)と言われています。ですので、脳動脈瘤は「普段はおとなしいが、暴れだすとやっかいな病気」といえます。

  脳動脈瘤は「破裂するのは年間におよそ100人に1人」の病気ですから、「全ての」脳動脈瘤が治療の対象となるわけではありません。「破裂した」、「破裂する危険が高い」、「症状の原因となっている」脳動脈瘤に対して、治療を行います。脳動脈瘤は、残念ながら内科的治療(薬剤による治療)や放射線治療で治療することはできません。脳動脈瘤の治療には外科的治療(手術)、または脳血管内治療が必要です。

図2

脳動脈瘤対する脳血管内治療〜コイル塞栓術〜

  脳動脈瘤の治療には外科的治療(手術)または脳血管内治療が必要ですが、最近は脳血管内治療で治療される機会が増えてきました。脳血管内治療では、基本的に脳動脈瘤の中にマイクロカテーテルを挿入し、プラチナ性の離脱型コイルで脳動脈瘤を閉塞する「コイル塞栓術」を行います(図3-4)。コイル塞栓術は、高齢者や重症くも膜下出血など、全身状態が不良な患者さんにも施行可能です。また、外科的治療(手術)では治療が難しい脳動脈瘤でも治療が可能です。一方で、脳血管内治療でも治療が難しい脳動脈瘤は存在します。しかし、様々な技術の進化と器材の登場により、脳血管内治療で治療できる脳動脈瘤が増えてきました。

図3
図4

ステントを使用したコイル塞栓術

  コイル塞栓術が難しい脳動脈瘤として、①脳動脈瘤の入り口が広い、②脳動脈瘤から正常血管が分岐している、があげられます。このような脳動脈瘤に対し、ステント(金属製の筒)を使用した治療が2010年より可能になりました(図5-6)。ステントを脳動脈瘤の入り口を覆うように展開し、それを足場にしてコイルを挿入する方法です。この方法により、脳血管内治療でかなりの脳動脈瘤が治療できるようになりました。しかし①くも膜下出血の急性期(発症から14日間)では使用できず、②抗血小板剤(いわゆる血液をさらさらにする薬)をある程度の期間、内服する必要がありますので、注意が必要です。

図5
図6

フローダイバーター留置術

  また、コイル塞栓術が難しい脳動脈瘤として、大型の脳動脈瘤(≧10mm)があげられます。そのような脳動脈瘤に対して、フローダイバーター(前述ステントよりもさらに網目が細かい金属製の筒)を使用した治療が2015年より可能になりました(図7-8)。当初は10mm以上の脳動脈瘤が対象でしたが、2020年より5mm以上の脳動脈瘤に対象が拡大しました。この治療の特筆すべきところは、「コイルの挿入が必ずしも必要でない」ところです。脳動脈瘤の中にコイルなどの器材を入れる必要がないので、治療中に脳動脈瘤が破裂する危険は極めて低いです。また、「非常に短時間で治療が終わる」ことも特筆すべきで、1時間もかからずに治療が終わることもあります。しかし前述のステント同様、①くも膜下出血の急性期(発症から14日間)では使用できず、②抗血小板剤(いわゆる血液をさらさらにする薬)をある程度の期間、内服する必要があり、さらに③脳動脈瘤の消失には時間を要する ので注意が必要です。

  フローダイバーターは高度な専門性が要求される治療法のため、この治療ができる施設は極めて限られています、現在、日本では3種類のフローダイバーターの使用が認められていますが、全てのフローダイバーターを使用できる施設は、さらに限られています。なお当院では、全てのフローダイバーターが使用可能です。

図7
図8

W-EB留置術

  また、前述のようなコイル塞栓術、フローダイバーター留置術でも治療困難な脳動脈瘤に対して、W-EBという器材が2020年より使えるようになりました(図9)。W-EBは金属製の網でできたちょうちんのような器材で、これを挿入して脳動脈瘤を閉塞させる治療法です。この治療の特筆すべき点は、くも膜下出血の急性期(発症から14日間)でも使用できることです。また、抗血小板剤の内服期間も短期間ですむ利点があります。

  W-EBを使用できる施設は、フローダイバーターよりもさらに限られていますが、当院ではW-EBも使用できる体制も整えています。

  脳動脈瘤の治療でお悩みの患者さんにつきましては、当院では外科的治療(手術)も含めて多くの選択肢を提示できます。ぜひご相談ください。

図9

頚部内頚動脈狭窄症

  頚部内頚動脈狭窄症は、脳へ向かう血管の根本(頚部内頚動脈)が細くなる病気です。そのほとんどは動脈硬化が原因であり高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などが危険因子です。頚部内頚動脈狭窄症の問題点は、それにより脳梗塞(脳の血管がつまる病気)を起こしやすくなってしまうことです。そのため、適切な治療が必要になります。

  狭窄の程度が軽度の場合、内科的治療(高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療、生活習慣の改善など)で脳梗塞の発症、狭窄の進行を防ぎます。しかし、狭窄が高度になると脳梗塞の発症が年間2%でみられ、さらに一度脳梗塞を発症するとその再発率は年間13%といわれていますので、外科的治療(手術)または脳血管内治療が奨められます。脳血管内治療では、細くなった頚動脈をバルーンで拡張させ、ステントとよばれる金属製の筒を留置する「頚動脈ステント留置術」が行われます(図10-11)。治療時間は40分程度です。全身への侵襲が少ないため高齢者、合併症で全身麻酔が困難な患者さん、手術では治療が困難な患者さんなどにも施行可能です。しかし、頚動脈ステント留置術は、カテーテル治療特有の難しさがあります。狭窄性病変の位置や性状、年齢、既往歴などをよく検討し治療方針を検討することが重要です。

図10
図11

急性期脳梗塞

  脳梗塞とは脳の血管が詰まってしまう病気です。脳の血流が無くなると脳の組織が死んでしまい、重大な後遺症を残す可能性があります。特に「心原性脳塞栓症」という心臓から血の塊が飛ぶタイプの脳梗塞は、突然前触れもなく脳の太い血管がつまることがあります。太い血管がつまり大きな脳梗塞になると、重大な後遺症を残す危険が高くまた、最悪の場合は生命にかかわります。

  しかし、脳の血管がつまった瞬間にすべての脳の組織が死んでしまうわけではありあません。数時間以内に再び血液が流れるようにすれば、脳組織が死なずにすむこともあります。そのため、まずt-PAという血栓を溶かす薬を使って治療します。しかし、発症から4.5時間以内に投与しなければならないことや、太い血管が詰まっている場合にはt-PAの効果が乏しいことが問題となっていました。ところが2015年、t-PAの使用と同時に脳血管内治療(機械的血栓回収術)を行うと、t-PAだけを使用した患者さんよりも社会復帰できる可能性が高くなることがわかりました。その結果、日本を含めた全世界でこの機械的血栓回収術は、「行わなければいけない治療」に位置づけられました。対象は発症、または最後の健常確認から24時間以内の脳梗塞患者さんで、何らかの理由でt-PAを使用できない患者さんや、起床時脳梗塞(起きたらすでに症状が出ていた脳梗塞で全脳梗塞の20%を占める)も含まれます。

  現在、機械的血栓回収術に使用できる器材は、「ステント型血栓回収機器」と「血栓吸引カテーテル」の2種類です(図12-13)。近年は2種類の器材をあわせて使用することが多いですが、閉塞している場所によっては、どちらか一方の器材のみで治療を行うこともあります。

  いずれの方法も高い再開通率が期待できる治療法で、再開通が得られると後遺症が軽くすみ、かつ社会に復帰できる可能性が高くなります。

図12
図13

より負担の少ない治療を目指して〜橈骨動脈からの脳血管内治療〜

  従来、脳血管内手術は主に大腿動脈(足の付け根)から行っていました。それは①血管が太いため太いカテーテルを挿入しやすく、②血管の走行の関係上、より直線的に病変部に到達できるためです。

  しかしカテーテル操作は比較的容易であるものの、止血のために半日程度の安静臥床(寝返りも困難)が必要であり、これが患者さんの苦痛の原因の一つになっていました。さらには安静が解除されて歩きだした途端に穿刺部が腫れ、大きな内出血や動脈瘤をつくってしまうなど、穿刺部の合併症がみられることがありました。一方、心臓血管のカテーテル治療の分野では橈骨動脈(手首の血管)からの治療が一般的です。そこで、当院でもより負担の少ない治療を目指して、橈骨動脈からの脳血管内治療を行っています。さらなる負担を軽減目指して、遠位橈骨動脈(親指の付け根)からの治療も行っており、現在はこれを第一選択にしています(図14-15)。術後の安静は手首のみとなりますので、両足は自由にできますし、寝返りや座ったりすることもできます。麻酔がしっかり覚醒していれば、歩行することもできます。また穿刺部合併症も、大腿動脈から治療を行った場合と比較して少ないこともわかっています。

  世界的に見ても、橈骨動脈からの脳血管内治療を行っている施設はまだ少数です。ただし、大腿動脈からの治療の方が安全な場合もありますので、患者さん個々の事情を鑑みて、患者さんにより負担の少ない治療の実現を目指しています。

図14
図15

最後に

  わたしたちは豊富な脳神経外科、脳血管内治療の経験から、可能な限り患者さんのご希望にそった治療をおこない、安心感をお届けできるよう努めています。あなたの病気は、大きな都会ではなくてもここ室蘭で治せるかもしれません。ぜひ、大川原脳神経外科病院でご相談ください。